Abstract
精子形成過程における優性致死誘発機序を解明するため, MMS 100mg/kg を雄マウスに投与し, 1細胞期胚染色体分析, 受精後3日胚の細胞学的分析, 不定期 DNA 合成の検出を行い, それらの関連性について検討した. 1細胞期胚染色体分析にあたって著者らは, 従来の Tarkowski 法と異なるマウス1細胞期胚染色体標本作製法を開発し, 本法が簡便で精度の高い方法であることを示した.実験の結果, 精子形成過程での1細胞期胚染色体異常誘発と優性致死誘発の時期はまったく一致し, 後期精子細胞 (late spermatids) から精管内の精子にかけて MMS による顕著な作用を示すことが明らかにされた. しかしこれらは後期精母細胞から前期精子細胞 (early spermatids)に生じた不定期 DNA 合成を指標とする修復時期とは一致しなかった. また優性致死試験で高頻度の未着床を生じた時期の1細胞期胚は, すべて染色体異常を有し, 1卵当り平均8個以上の染色体異常が検出された. しかしこの時期において未受精卵は観察されず, 染色体異常を誘発するような傷害をもった精子でも受精は可能であることが認められた. さらに受精後3日胚の細胞学的分析では, 分割遅延や小核が観察された. 以上の結果から不定期 DNA 合成能の欠如している雄生殖細胞の時期に生じた MMS による傷害は, 受精後1回の DNA 合成期を経たのち, 1細胞期胚染色体異常として出現し, それらの染色体異常が要因となり胚発生の停止による未着床を生じて顕著な優性致死を誘発することが示唆された.